自作アンプで音楽サーバーを組む

オーディオ

自粛期間を活用して自作アンプを製作して簡単な音サバを組んだので,学んだ内容やアンプの設計についてまとめる.
音サバと言ってもSpoifyを介して再生するお手軽なもの.

構成

構成は下の図のようにした.最初はRasPiにvolumioを入れて使用していたが色々安定しなかったので,GBox ProというミニPCにUbuntuを入れてSpotifyを起動しSpotify経由で再生している.

アンプは単電源で動作するように設計し,電源は19V3.42AのACアダプタ(前のノートの余ってたやつ)を採用しているのでお手軽.
また,USBDACでディジタルアナログ変換をしており,USBにさすだけで使用できるので便利である.アンプで使用している部品はすべて秋月から購入可能.

自作アンプの回路設計

次に示すのが今回製作したAB級アンプの回路図である.

構成はかなりシンプルで,初段の電圧増幅部と2段の電力増幅部およびそれらのバイアス回路のみである.
それぞれの回路について基本的な特性や抵抗値やキャパシタの大きさの決め方について説明していく.

電圧増幅部

電圧増幅にはお手軽さのためにオペアンプで非反転増幅器を組んだ.
下図は電圧増幅部のみ取り出した回路図である.
オペアンプは低歪みや高精度と謳われているものであれば基本何でも良いと思われる.
秋月で購入可能で単電源で低歪み,動作電圧が合致していたのがAD822だったのでAD822で組むことにした

電圧増幅回路

非反転増幅器の特性

非反転増幅器の電圧増幅率\( A_v \)は\( Z_1, Z_2 \)に置き換えて簡単化すると

\begin{align} A_v = 1 + \frac{Z_2}{Z_1} \end{align}

となる.この回路は通常の非反転増幅器にコンデンサを接続することで,DC成分は増幅せずAC成分のみを増幅するようにしている.詳しい特性は,\( Z_1 = 1/j \omega C_3+R_3, Z_2 = R_4 \)として計算すれば導出でき,

\begin{align} A_v = 1 + \frac{j \omega C_3 R_4}{1 + j \omega C_3 R_3} \end{align}

となる.なので,カットオフ周波数が\( 1/ 2 \pi C_3 R_3 \)のハイパスフィルタになり,これより高い周波数成分の電圧増幅率は\( A_v = 1+ R_4/R_3 \)になる.

非反転増幅器の回路定数の決定

非反転増幅器の回路パラメータである\( R_3, R_4, C_3 \)の値を決定する.設計目標としては表のようにする.
周波数特性を200Hz以上と高めに設定しているのは,自分のオーディオ環境ではサブウーファーで200Hzまでがカバーされているので,メインスピーカーから200Hz以下の低音域を鳴らす必要がないからである.
むしろ,普通のスピーカーにあまりに低音域の音を入れるとビリビリとした不快な音が出て聞くに耐えない.

電圧利得約10倍
周波数特性200Hz ~ (上限は特に指定なし)

電圧利得が約10倍としたいので,\( R_4/R_3 = 10 \)にすれば良い(正確には11倍となるが気にしない).
自分が参考にした文献では抵抗の値がkΩオーダーであったので,上の条件と入手しやすい抵抗値を加味して\( R_3 = 1 \; {\rm k \Omega} \),\( R_4 = 10 \; {\rm k \Omega} \)とした.

残りは\( C_3 \)であるが,これは実現したい周波数特性によって定まる.
この非反転増幅器はカットオフ周波数\( f_c \)が\( 1/ 2 \pi C_3 R_3 \)のハイパスフィルタになるのは上述した通りなので,\( f_c > 200 \; {\rm Hz} \) になるように\( C_3 = 0.47 \; {\mu F} \) とすると

\begin{align} f_c = \frac{1}{2 \pi R_3 C_3} = 3.4 \times 10^2 {\rm Hz} \end{align}

となる.少し高すぎる気もするが,もともとの増幅率が高いので200 Hz付近でも十分に増幅できるのでOK.
もう少しカットオフ周波数を低めにするために\( C_3 = 1.0 \; {\mu F} \) としても良い.

バイアス回路の回路定数の決定

残りはバイアス回路の定数決定で \( R_1, R_2, R_5, C_2 \)とDCカップリング用の\( C_1 \)を決定する.
まず\( R_1, R_2 \)にどの程度電流を流すかで\( R_1, R_2 \)は決まる.
このバイアス電流\( I_B \)は負荷がオペアンプであまり電流を流す必要がないので,\( 0.1 \sim 1 \; {\rm mA} \)も流せば良い.
今回は\( I_B = 0.3 \; {\rm mA} \)として\( R_1 = R_2 = 3.3 \; {\rm k \Omega} \)とする.

次に周波数特性から\( C_1, R_5 \)を決める.
これはハイパスフィルタになりカットオフ周波数が低ければ反転増幅器で周波数特性が決まるため,反転増幅器のカットオフ周波数と同じもしくは低ければ何でもよい.
ので手持ちの部品数などを考慮して回路図に示すとおりにしている.

最後に\( C_2 \)であるがこれはPSR(電源電圧除去比)をあげるためのコンデンサである.
PSRは電源電圧が変動したときに各ノードがどの程度変動するかで決まる.
これが小さいほうが電源電圧変動に対して強い信頼のおける回路であると言える.

詳しくは文献[1]を参照して頂き,ここでは重要事項のみを述べる.
電源電圧の変動はどのような周期または周波数で変動するかが重要である.
\( R_1, R_2 \)と\( C_2 \)の値で電源電圧変動に対応できる周波数帯が異なってくることが重要である.
回路図に示した値を用いると,

\begin{align} f = \frac{1}{2 \pi (R_1 // R_2) C_2} = 10 \; {\rm Hz} \end{align}

となり,これより高い周波数の電源電圧変動に対しては強い回路ということになる.
これで十分かと問われると多分としか言いようがないが,今のところ問題は出ていない.

電力増幅回路

次に示すのが電力増幅回路のみ取り出した回路図である.
この回路はバイアス回路(AB級アンプを説明した際のダイオードの代わり)と2段のプッシュプル回路で構成される.
それぞれについて回路定数の決め方について述べる.

電力増幅回路

プッシュプル回路

プッシュプル回路では各パスに流れる電流を概算し,それにあったトランジスタを選定した後,抵抗値を決定する.
次に示すのは各パスに流れる電流を簡易的に表している.

今回のアンプは電源が19Vうちバイアス電圧分で2.4V差し引かれさらに1.6V余裕を見ると増幅に使用できる電圧幅としては15Vと概算できる.
このときの消費電力は

\begin{align} P = \frac{V_p^2}{2Z} = \frac{7.5^2}{2 \times 6} = 4.7 \; {\rm W} \end{align}

と概算できて,このとき最終段のトランジスタには最大\( 1.25 \; {\rm A} \)流れる.
なので今回はかなり余裕があるが東芝の2SD2012とコンプリメンタリである2SB1375をLTspiceでは使用する.
データシートよりこれらの電流増幅率はhFe = 120程度らしいのでこの値で割るとベース電流は10 mAとなる.

1段目のプッシュプルのトランジスタは10 mA程度しか流れないので2sc1815のような簡単なもので良いが,後述する熱結合のために放熱板に取り付けないといけないのでTTC004BとTTA004Bを選定した.

上記と同様にして電流増幅率からプッシュプル一段目のベース電流は0.07 mAとなる.
この電流値はオペアンプから供給される電流になるのでオペアンプの出力電流(10 mA程度が目安)を超えないようにする.
このアンプではプッシュプルを1段にすると10 mAを超えてしまう可能性が大いにあるので2段にカスケード接続している.
また,オペアンプからの供給電流が小さいほうが歪みが小さく音質が良くなるので音質の観点からも2段にしたほうが良いだろう.

プッシュプル回路の回路定数決定

残りは抵抗値の決定である.
\( R_5 \)には\( 2.4 – 2V_{be} \simeq 1.2 \; {\rm V} \)が常に印加される.
無信号時はここに約10 mAの電流を流しておくとすると\( R_5=100 \; {\rm \Omega} \)とすれば良い.

\( R_8, R_9 \)はバイアス電圧を\( 4V_{be} \)より大きくなってしまった際に過電流が流れることを防ぐ.
ただしこれを大きくし過ぎると出力抵抗が上がりスピーカを駆動できなくなるので小さめに0.22 Ωとしている.

\( R_6, R_7 \)はp型とn型のトランジスタの電流のマッチングをよくするためのベース抵抗である.
大きくし過ぎると電圧降下によってひずみの原因となる.
回路図では33 Ωとしているがもう少し小さくしても良いかもしれない.

ACカップリングコンデンサ

回路図ではスピーカーの手前にコンデンサ\( C_1 \)が挿入されているがこれは直流成分を除くためのものである.
このカップリングコンデンサとスピーカー負荷6 Ωでハイパスフィルタとなるが,\( C_1 = 1000 \; {\rm \mu F} \)にしているのでカットオフ周波数は電圧増幅回路のカットオフ周波数よりも小さく設定しているため,周波数特性に大きくは影響しない.

バイアス回路

このバイアス回路はAB級アンプとして動作させるための重要な回路で,AB級アンプについて説明した際のダイオードの代わりである.プッシュプル回路が一段の場合,バイアス電圧は\( 2V_{be} \)で良いが,今回はプッシュプル回路を2段カスケード接続しているのでバイアス電圧は\( 4V_{be} \)必要となる.

バイアス回路の動作原理について説明する.
トランジスタの\( V_{be} \)は0.6 Vとなるので\( R_2 \)には0.6 Vが加わる.
\( R_1, R_2 \)にはベース電流を無視できるとすると同じ電流が流れるので,回路図における\( V_B \)は

\begin{align} V_B = \frac{R_1 + R_2}{R_2} = 4V_{be} = 2.4 \; {\rm V} \end{align}

となる.よって,\( R_1/R_2 = 3 \)となっていれば良い.

次に,\( R_1 \sim R_4 \)を決定する.
プッシュプル回路の1段目のゲート電流は約0.07 mAと概算できるので,その10倍以上の\( 1 \; {\rm mA} \)をバイアス回路のトランジスタに流せば十分である.
これで\( R_3, R_4 \)の値が決まり\( R_3=R_4=6.8 \; {\rm k\Omega} \)とすれば,1.2 mA流れる.

ベース電流\( I_B \)は\( 1.2 \; {\rm mA} \)の1/100程度なので\( R_1, R_2 \)には\( 0.1 \; {\rm mA} \)程度流せばベース電流は無視してよい.
\( R_1=5.1 \; {\rm k\Omega} \),\( R_2=15 \; {\rm k\Omega} \)とすればこれらの抵抗には\( 0.1 \; {\rm mA} \)程度のバイアス電流が流れてかつ\( R_1/R_2 \simeq 3 \)とできる.

熱結合

もう一つ考慮すべき重要項目があってそれはトランジスタの温度変化である.
特にスピーカーを直接駆動するQ4, Q5は大きな電流が流れるためにそれだけ発熱も大きい.
では,Q4, Q5のみ温度が上がった時を考えてみる.

下の図に温度上昇メカニズムを示していて,赤は上昇を青は減少を示している.
温度上昇のメカニズムは

① トランジスタに大きな電流が流れ温度が上昇する
② \( V_{be} \)が小さくなる
③ ベース電流が大きくなりU2のコレクタ電流が大きくなる⇒①へ

のように正帰還となってしまい温度が上昇する一方になってしまう.これが熱暴走である.

これを防ぐにはバイアス回路のトラジスタU3の温度をU1やU2と同じ温度にしてあげればよい.
そうすれば,バイアス電圧も温度上昇に応じて減少するので②⇒③が起こらず,熱暴走を防ぐことができる.
トランジスタの温度を同じにすることをより短く「熱結合する」と表現される.
同じ放熱板にこれらのトランジスタを取り付ければ熱結合することができ,熱暴走も防げる.

熱暴走メカニズム

回路シミュレーション結果

周波数特性は次に示すとおりになった.
確かにカットオフ周波数は340 Hz程度になっている.

周波数特性のシミュレーション結果

実装

長期的に使用することを考えてkicadで設計し基板をelecrowに発注した.
下の図はkicadで使用した回路図である.

LTspiceでの回路図との大きな違いは
①バイアス回路の調整機能の追加
②ステレオ⇒モノラル変換の追加
③音量調節用ボリュームの追加
④最終段のトランジスタの変更
である.

④についてLTspiceではトランジスタのモデルを東芝製のものを用いていたが,実際に基板に実装した際に用いたのはSanken社製の2SA1488Aと2SC3851Aである.
さらにオーバースペックになったのはさておき,こちらは秋月でコンプリメンタリペアがそろって販売されているが,上述した東芝製の2SD2012と2SB1375はなぜか2SB1375が販売されていなかったからである.
また,困ったことにSanken社製の2SA1488Aと2SC3851Aの方はSPICEモデル(というかパラメータ)が手に入らなかったのでシミュレーション上だけ東芝製のもので代用しているという事情である.

基板実装後

実装後の基板はこんな感じ.
ガワは3Dプリンタで刷った(本当は金属にしたいが工作機械にアクセスできないので).

まとめ

今回初めて自作アンプを組んでみて,最初は考えることが多く何から手を付けたらいいか全く分からなかったが,何とか完成させることができた.
最初に音が鳴ったときは感無量だった.
特段耳がいいというわけではないが自分にとっては音質はかなり良く楽しめている.

是非皆さんも自作アンプ挑戦してみてください.

参考文献

設計において参考になる本や資料.

[1] https://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/application-notes/AN-581_jp.pdf

[2] 鈴木雅臣,定本トランジスタ回路の設計,(CQ出版,2016)

[3]落合萌,オーディオ用半導体アンプ設計・解析,(誠文堂新光社,1998)

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